「デザイン経営」とは?
- デザイン経営について知りたい人
- デザイン経営を取り入れてみたい人
- デザイン経営って大企業がやる施策でしょ?と思っている中小企業やマイクロ法人の社長様
「デザイン経営」と聞いて、あなたはどんなことを思い浮かべますか?
「おしゃれなロゴを作ること?」
「ウェブサイトをかっこよくすること?」
もしそのような具体的な施策やデザインの見た目に対するイメージが浮かんだら、少し勘違いしているかもしれません。
デザイン経営には、
デザイン=単に見た目をよくすること
ではなく、顧客とのコミュニケーションであるという考え方が重要です。
この記事は、広告業界歴11年目のデザイナーが、デザイン経営について初めての方にもわかりやすく解説。この記事を読むことで、デザイン経営について知識を深めるだけでなく、実行に移すことができるようになります。

「デザイン経営」とは、デザインを経営戦略の中心に持ってくること
デザイン経営とは、一言でいうと「デザインの力を、会社の経営戦略のど真ん中に持ってくること」です。
「デザイン」とは、単に見た目を良くすることだけではありません。
お客様が「何を求めているのか」「何に困っているのか」、そして「どんな体験をしてもらいたいか」を深く考え抜くこと。そして考えた答えを、商品やサービス、会社の仕組み、働き方、コミュニケーション、見た目の全てに落とし込んでいきます。つまり、デザインとは顧客とのコミュニケーションです。
なぜ今、「デザイン経営」が重要視されているのか
経済産業省と特許庁が共同で「デザイン経営宣言」を出しているのをご存知でしょうか?これは、日本の企業が世界で再び輝くために、「デザイン」を経営の最重要課題と位置づけなければならないという国からのメッセージなんです。
彼らが指摘するのは、主に以下の2点です。
- ブランド力の向上
お客様に「あの会社、なんかいいよね!」と強く印象付ける。 - イノベーションの創出
お客様が気づいていない「こんなの欲しかった!」を生み出す。
これらを通じて、あなたの会社の競争力を高め、持続的な成長を実現することが「デザイン経営」の目指すところです。
昔のように「良いものを作れば売れる」時代は終わりました。今は、お客様の心をつかみ、「この会社だから」と選ばれ続けるための、目に見えない価値が求められています。つまり、「デザイン」とは単なる見た目を整えることではなく、経営者の「意思決定」そのものであり、お客様にとっての最適な「体験」や「価値」を、戦略的に設計し、形にする行為そのものなのです。
多くの社長がここで躓く!「デザイン経営」の概念
「デザイン経営」と聞いて、多くの社長さんが最初に感じる疑問や戸惑いについて、一つずつ見ていきましょう。
01:「自分たちの作りたいもの」が中心?
違います!デザイン経営は「お客様のニーズありき」が超重要です。
「当社は〇〇が得意だから、〇〇の商品を作ろう!」だけでは、お客様に選ばれ続けるのは難しい時代です。デザイン経営では、まずお客様が「何に困っているのか」「どんなことで喜んでくれるのか」を徹底的に理解するところから始まります。
具体例
例えば、あなたが企業向けITサービスを提供しているとします。「最新のAI技術を搭載した、とにかく高機能なシステムを作ろう!」と考えるのが「自分主体」。 一方、「お客様のニーズありき」で考えるなら、ターゲットとなる中小企業が「導入が簡単で、サポートが手厚いサービスを求めている」「初期費用を抑えたい」といった、具体的な課題やニーズから、サービス内容や料金プランを設計していきます。
社長の「こんな会社にしたい!」という想いも大切ですが、その想いを「お客様がどうすれば喜んでくれるか」という視点で形にするのが、デザイン経営の肝なんです。
02:「デザイン思考」と何が違うの?同じ?
違います!「デザイン思考」は課題解決の「レシピ」、「デザイン経営」は会社を強くする「経営全体」の戦略のことです。
デザイン思考
お客様の困りごとを深く理解し、アイデアを出し、試して改善する、という具体的な「やり方」や「手順」。
具体例
企業向けクラウドサービスで「導入後の操作に関する問い合わせが多い」という課題に対し、顧客企業の担当者の様子を観察し、「マニュアルが専門的すぎて分かりにくい」と課題を定義。「動画チュートリアルを作成する」「チャットボットを導入する」などのアイデアを発想し、実際に試作して、一部の顧客企業にテストしてもらい改善する、といった一連の流れ。
デザイン経営
そのデザイン思考を、会社の戦略、ブランド、組織文化、人材育成など、経営のあらゆる側面に組み込んで、会社全体を強くしていく「経営手法」のこと。
具体例
上記の「分かりやすい導入サポート」ができたとして、デザイン経営では、そのサポートを単体で提供するだけでなく、「お客様の業務効率を徹底的に向上させる」という会社の想い(ブランド)をどう伝えるか、「導入後の定着支援を新たな事業の柱にする」という新しいビジネスモデルに繋げられないか、といったことを経営のトップが戦略的に考え、実行していきます。
デザイン思考は、デザイン経営を実現するための強力なツールの一つ、と考えると分かりやすいでしょう。
03:普段の経営は「数字」が中心だから、デザイン経営は向かない?
真実: 違います!デザイン経営は、「お客様ニーズ」が「数字」に繋がる新しい経営スタイルです。
確かに、多くの会社では売上や利益といった「数字」が経営の中心にあります。しかし、デザイン経営では、「お客様のニーズに応えること」や「新しい価値を生み出すこと」を徹底的に追求した結果として、数字が後からついてくるという考え方をします。
「お客様が〇〇という問題で困っている。これを解決したら、きっと喜んでくれるはずだ!」というお客様への価値提供を起点にすることで、結果として顧客満足度が上がり、売上や利益も増える、という好循環を目指します。
中小企業の社長にとって、目先の数字が最も重要であることは、私たちもよく理解しています。 だからこそ、デザイン経営では「お客様への価値提供」という行動目標を設定し、その成果を短期的な指標(例:顧客満足度、問い合わせ件数、ウェブサイトの滞在時間など)で測りながら、中長期的に売上や利益といった最終的な数字に繋げていきます。まずは、「お客様への価値提供に投資すれば、数字は後からついてくる」という信頼を、小さな成功体験で積み重ねていくことが大切です。
04:数字がすぐに変わらないなら、失敗なのでは?
違います!数字が劇的に変わらなくても、それは「失敗」ではなく「学び」と捉えるべきです。
特に中小企業では、投入できるリソースに限りがあるため、効果がすぐに出ない施策は不安になりますよね。しかし、デザイン経営は「仮説検証」と「学習」を繰り返すプロセスを重視します。
具体的な例
例えば、企業向けサービスのデモページの改善で、問い合わせ獲得率を伸ばすことを目指したとします。結果、問い合わせが劇的に伸びなかったとしても、それは「この改善策では顧客企業の担当者の真のニーズを満たせなかった」という貴重なデータ(学び)が得られたということです。なぜ変わらなかったのかを分析し、次の改善策に活かすことで、より効果的な打ち手が見えてきます。
この「素早く試して、素早く改善する」サイクルこそが、無駄な投資を防ぎ、会社を強くするのです。
05:うちみたいな小さな会社にはハードルが高すぎる?
そんなことはありません!むしろ社長のリーダーシップがあれば、中小企業こそ始めやすいのです。
しかし、中小企業やマイクロ法人の社長様にとっては、「デザイン」という言葉はどこか遠い世界の話のように感じるかもしれません。ですが、デザイン経営は、あなたの会社をこれから先もずっと、お客様に選ばれ、成長し続けるために、今最も必要な「考え方」であり「具体的な行動」です。
デザイン経営は、社長であるあなたの「お客様を本当に大切にしたい」「会社を成長させたい」という強い想いとリーダーシップが何よりも重要です。大企業のように組織が大きすぎず、社員との距離が近い中小企業だからこそ、トップの考えが浸透しやすく、スピーディーに実践できる強みがあります。
もちろん、社内での意識統一や新しい取り組みへの抵抗があるかもしれません。しかし、小さな成功体験を積み重ね、社員とビジョンを共有していくことで、必ず乗り越えられます。全てを一度に変えようとせず、まずは小さく、できるところから取り入れることが重要です。必要に応じて、外部の専門家と連携することも有効な手段です。
「デザイン経営」の具体的な進め方
では、あなたの会社で「デザイン経営」を実践するには、具体的にどんなステップで進めていけば良いのでしょうか?難しく考えず、以下の流れを意識してみてください。
ステップ1:お客様を「徹底的に理解する」(共感)
これがデザイン経営の出発点であり、最も重要なステップです。
お客様の観察
実際に商品やサービスを使っているお客様の様子を観察してみましょう。どんな時にどんな表情をしているか、どんな行動をしているか?
お客様へのヒアリング
お客様に直接話を聞いてみましょう。「どんなことで困っていますか?」「もっとこうだったら嬉しいのに、と思うことはありますか?」と、心の内にあるニーズや不満を引き出します。
【例】 顧客企業に「他社のサービスと比べて、弊社のサポート体制で改善してほしい点はありますか?」と尋ねる。
数字の裏にある「人間」を想像する
例えば、ウェブサイトの「資料ダウンロードページでの離脱率が高い」という数字があったら、その数字の裏には「求めている情報が見つからなかった」「入力項目が多すぎて面倒だった」というお客様の行動や心理が隠れています。その「なぜ?」を想像することから始めます。
私たちはこのステップで、お客様の「ペルソナ」や「カスタマージャーニーマップ」を作成するワークショップをご提供できます。BtoB特有の購買プロセスや、決裁者・利用者のニーズを深く掘り下げ、具体的な施策に繋がる「地図」を描くお手伝いをします。
ステップ2:本当の課題を「定義する」(問題定義)
お客様の声をたくさん集めたら、「結局、お客様はどんなことで一番困っているんだろう?」という本質的な課題を見つけ出します。
まずは集まった情報の中から、共通する悩みや繰り返し出てくる不満を深掘りするところから始めましょう。
【例】 「顧客企業の担当者が、導入後のシステム操作に不安を感じて、導入決定までに時間がかかっている」というように、具体的に課題を言葉にしてみましょう。
ステップ3:アイデアを「たくさん生み出す」(発想)
定義した課題を解決するために、どんなアイデアがあるか、自由に発想します。
「こんなことできたら面白いかも!」「こうしたらお客様、喜ぶだろうな!」と、常識にとらわれずに、とにかくたくさんのアイデアを出してみます。
【例】 「導入前のオンライン無料体験会を開催する」「導入後の操作をサポートする簡易動画シリーズを作る」「顧客企業間のコミュニティサイトを立ち上げる」など。
社員みんなで意見を出し合う「ブレインストーミング」なども効果的です。
私たちは、オンライン・オフラインを問わず、お客様に響く施策アイデアの発想をサポートします。貴社のサービスや営業プロセスを客観的に捉え、社内では気づきにくいお客様の視点からのアイデアをご提案できます。
ステップ4:形にして「試してみる」(試作・プロトタイプ)
たくさんのアイデアの中から、「これだ!」と思うものを、まずは小さく、早く、形にしてみます。
いきなり本格的なサービス開発や大規模なウェブサイト改修をするのではなく、簡易的なテストやプロトタイプで検証します。
【例】新しい導入サポート動画を、まずは数社のお客様に限定公開し、使い勝手や理解度に関するフィードバックを集める。
企業向けウェブサイトの特定のサービス紹介ページだけを改善し、お問い合わせフォームへの遷移率の変化を見る。
ウェブサイトやランディングページ、広告クリエイティブ、オンラインセミナーの仕組みなど、お客様に直接届く「形」を、グロースマーケティングの視点で素早く制作し、効果検証できる体制を整えます。
ステップ5:お客様に「試してもらい、学ぶ」(検証・テスト)
試作品や改善したサービスを、実際にお客様に使ってもらい、その反応を注意深く観察します。
- 「使ってみてどうでしたか?」「前と比べてどう変わりましたか?」と率直な意見を聞きます。
- この時の「数字の変化」(例:ウェブサイトの滞在時間が延びた、問い合わせが減ったなど)も重要な情報です。
- もし期待通りの結果が出なくても、それは「失敗」ではなく「学び」です。「なぜ変わらなかったのか?」を徹底的に分析し、次の改善につなげます。
ステップ6:学習し「改善」を繰り返す(PDCAサイクル)
ステップ1~5で得られた学びを元に、さらにアイデアを練り直し、改善策を実行します。そして、このサイクルを何度も何度も繰り返します。
このプロセス全体が、デザイン経営における**「PDCAサイクル」**と繋がっています。
- P (Plan – 計画):お客様理解と課題定義に基づいて、改善策(行動目標)を計画する。
- D (Do – 実行):小さな試作を実行する。
- C (Check – 評価):お客様の反応や数字の変化を評価する。
- A (Action – 改善):評価結果から学び、次の計画に活かす。
この「ぐるぐる回る」サイクルを、常に「お客様視点」を忘れずに回し続けることが、デザイン経営の真髄です。
中小企業やマイクロ法人こそ「デザイン経営」!
あなたの会社は、大企業にはない「お客様との距離の近さ」という強みを持っています。お客様の顔が見え、直接話を聞ける環境は、デザイン経営を実践する上で非常に有利です 。 「数字がすぐについてこない施策は不安」と感じるかもしれません。しかし、デザイン経営は「小さく始めて、早く検証し、学びながら育てる」ことができます。
【事例01
株式会社ソーキ(経済産業省・中小企業庁事例集より)】 計測機器のレンタルを行うソーキは、計測機器が「地味」という社内外のイメージに課題を感じていました。そこで、社内の空気を変えるためにロゴやカラーなどデザインを一新し、目に見える形で会社のビジョンを伝えました。外部のデザイナーの協力を得て、経営の最上流からデザインに取り組む体制を構築。地味なイメージを刷新し、社内の一体感を高め、結果的にBtoB市場でのブランドイメージ向上と新規顧客獲得に繋がっています。
【実際の事例:東洋ステンレス研磨工業株式会社(特許庁「中小企業のためのデザイン経営ハンドブック2」より)】
金属研磨技術を持つ同社は、自社の技術が単なる「加工手段」ではなく、「金属の価値を高める」ことだと再認識しました。そこで、「金属化粧師」という独自のコンセプトを打ち出し、意匠加工のための自社ブランド「MAKO」を立ち上げました。**当初は売上を伸ばすことに苦労しましたが、外部デザイナーと連携して金属雑貨の試作を重ね、デザインイベントに出展。**その経験から、自社の技術が都内のおしゃれな建物に使われるなど、新たな市場へと事業を広げ、社員のモチベーション向上にも繋がっています。
あなたの会社でも、まずは、お客様の一番小さな「困った」を、あなたの会社の一番得意な方法で、小さく試して解決してみませんか?
その行動が、やがてお客様の大きな喜びにつながり、あなたの会社の売上やブランド価値を、着実に高めていくことでしょう。
デザイン経営は、あなたの会社を単なる「モノやサービスを提供する会社」から、**「お客様の人生を豊かにする価値を創造する会社」**へと変革する強力な羅針盤です。